弟子が陽明に尋ねた、
ー先生、教えて欲しいのです、
どうすれば志は立てられるでしょうか?
陽明は、請願する若者に、
微笑みながら語り始めた、
ーまず、大それた夢、大きなビジョンを、
掲げようと思う必要は無いよ、
そう考えるから難しいんだよ。
いいかい、目の前にある出来事に、
自分は人としてどうあるべきかを、
それを考えてみることだよ。
例えば、ある雨の日、
小さな女の子が傘もささず、
びしょ濡れで立っていたとする。
すると、君はどんなことを思う、
おそらくは、親御さんはいないのかな?
大丈夫かな?
じぶんにできることはないかな?
そう思うだろ?
実際に女の子に対して、何らかの
行動を起こすかどうかは別だけれども、
でも何かをしたほうが良いことは
知っている。
そう思うのは皆、同じだろ?
困っている人、弱き者を見たら、
何かしてあげたいと思う。
これを仁の心という。
そして、
行動できるかどうかは、別として、
人として何をすべきかは、
教えられずともちゃんと知っている。
それを良知という。
そして人には、みな、
必ず良知が働いているんだ。
この良知の働きは天理なんだ。
天理とは、宇宙の法則というか、
それとも大自然の摂理と言えば良いか?
とにかく、この良知は、
人間という生き物すべて初めから、
備わっている機能なんだよ。
志を立てようと思うなら、
日々、目の前に起こる出来事に対し、
良知で何をすべきかを考えてみる。
すると、ちゃんと自分にも、
良知が働いていると、
だんだん、確信できるはずだ。
そう、自分の中にも間違いなく、
天理が働いていると、
確信を持てるはずだ。
そして、その天理に従って、
日々、行動していくことだ。
そうして、良知に従い、
目の前の課題を解決すれば、
そのまた先に新たな課題が見つかる。
そして、その課題を解決すれば、
また新たな課題が見つかるはずだ。
そうやっていくうち、
心の中に自分を突き動かす、
確固たる思いができてくる。
それが志というものだよ。
先人たちもそうやって、
志を立ててきたんだ。
いいかい、まず目の前のことを、
良知でむきあい、行動すること、
悩むことはない、そうしていけば、
いつの間にか志は立っているよ。
✉️ 前略 陽明先生
良知のことを英語では、
[con-science]と書く。
[con]は共通するという意味で、
[science]は科学という意味。
良知とは、
万人共通する科学(メカニズム)、
そのよう訳しても良いかもしれない。